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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
タエさんもまた、朱羽の父親の子供を宿した女達を疎み、その子供は道具とみなし、人権なんて無視なのだろう。
ひとをひととも思っていない、それゆえに生じる破壊衝動。
もしかするとタエさんが感じた、妹と愛する男との絆が、男が死んでも尚強固であることを忍月の強靱さと同一視し、忍月を壊したく思ったのかもしれない。
美幸夫人にとって専務と同じように、タエさんにとっての忍月も、愛する男の代償だった。
一方は、無自覚でも愛する男との愛を守り、一方では自分が許せない愛を壊したり、力尽くで自分のものにしたいと望む。
愛する者を失った女が辿る、ふたつの道。
美幸夫人になりきれなかったタエさんは――
「美幸さんがあなたを忍月の呪いから解き放とうとしているのがわかりませんか!? あなたはいまだ、忍月に取り憑かれているんです!」
……壊れた。
彼女は愛という名の消えない亡霊に取り憑かれ、そして彼女の行き場のなかった妄執が新たな霊を作る。この忍月に巣くう生き霊のひとつとして、忍月だけが通用する特殊世界を守る、強固な壁の生け贄となったのだ。
亡霊に魅入られた彼女を、美幸夫人が守り、そうした邪なものが手出し出来ない領域を作り上げようとしていた。
美幸夫人は頑なに、一途なほどに……忍月を愛した夫の遺志を守って。
それがきっと、わかりにくい美幸夫人の愛――。
朱羽が言った。
「……俺は、今まで美幸さんがしてきたことをなかったことには出来ない。あなたの心の傷はわかったけれど、それでも俺達の傷をあなたが見ようとしていない限り、迎合は難しい。渉さんは?」
「同感だ」
「だけど、あなたがひととしての心をきちんと見せてくれるのなら、いつかは……あなたは鬼ではなく、虐げられたひとのなれの果てだったと、そう思える時がくるかもしれません」
朱羽は真っ直ぐに美幸夫人を見た。
「当主は陽菜に一任している。これは俺達の意見だけど、陽菜はどう?」
「あたしは――」