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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「陽菜ちゃん、それ……」
「勝手に拝借してしまったご無礼をお許し下さい。こちらはお返しします。これはあなた達の弱みなんでしょう?」
「カバ!!」
「あたしが持つより、美幸さんが持たれた方がいい。あたしが持っていても使い途がありません。理解しようとするひとを脅したいとも思いませんし。でしたらこれで、あなたがタエさんを抑えて下さい。その方がいいと思うので」
「私を、信じるのか」
「信じたいと思います」
あたしは美幸夫人の顔を見て、しっかりと言った。
呆けたようなタエさんの顔が愉快だ。この裏帳簿なりなんなりは、きっと彼女が作ったものなのだろう。だからこそ、歪んだものを正しい形にして貰いたい。
「美幸さんも、あたしと同じ、やり直せる側の女性だと思うんです。人間、何度転んで痛みに苦しんでも、起き上がって歩いていける。それだけの力がある。苦しんで絶望の底を手で叩いたのなら、後は浮上するしかない。その安心感をバネに、前とは違った道を歩めると思うんです。あなたもまた、忍月に縛られているから」
「……っ」
「渉さんと朱羽が、忍月を変えてくれます。彼らはこれ以上の悲劇を作らないよう、全力で忍月を変えてくれると思います。そう、ふたりは決意したんです。逃げるのではなく戦おうと」
「渉……朱羽……」
「……これが俺と朱羽が出した、当主やあなたとの妥協案。閉鎖的な忍月を壊して、新たなる忍月を築き拡大し、守りを固める。俺は、当主や親父と同じ轍を踏まない。忍月を誰かの思惑で独占出来るようなものにはさせない」
専務はタエさんを見た。
朱羽が引き継ぐ。
「その点では、あなたと利害が一致するように思います。渉さんの意志は俺が、子供達が、受け継いでいく。仮に将来、俺達の子供がいなくても、それに変わる人材に継がせていく。忍月を傾かせないように。好きでもない財閥ですけれど、やると決めたからにはやりたいと思います。勿論陽菜を横に、シークレットムーンと掛け持ちしますが」
眼鏡をキランとさせて朱羽は言う。
「美幸さん。後はふたりにお任せ願えますか? 彼らなら忍月の犠牲となった痛みを知る。痛みを知るものは……どこまでも強くなれるものですから」
美幸夫人は、シゲさんと顔を合わせると、僅かに……微笑んだ気がした。