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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
それでも、多恵を使ってでも忍月に居たのは、後継者が決まっていなかったから。もしも後継者が決定していたのなら、私は去るつもりでした。
自業自得とはいえ、ご当主の意志を継ぐ者がいなくなってしまった。
……主人は、そこを危惧していたのだと、私は悟りました。
彼以外に、ご当主についていける者がいないと。
ご当主は厳格であるがゆえに大きすぎた。
……ご当主が生きているうちに、次期当主を決定させなければならない……それが、主人が死んでからの私の使命だと感じておりました。
どんな理由であれ、この家に嫁いできたのに、私は主人の意志を継ぐ跡取りを産めなかった。その責任は、どうしても果たさないといけないと。
もしもご当主に万が一のことがあるのなら、私が次期当主を打ち立てなければならない。主人が愛した忍月を守るために。使用人達に好き勝手にさせないために。
……そんなもしもの場合の話を、多恵は取り違えてしまった。
茂美を呼び寄せてまで、そのもしもの時のために、老いた私でも動けるようにとしてきたものが、多恵を勘違いさせてしまったのです。
長女である茂美の説得に耳を貸さず、自分にはそれだけの力があるのだと思い込み、支配欲を高めてしまった。忍月を自分のもののように思ってしまった。正当なる跡継ぎではない私の姉が、私利私欲の野望を持ってしまった。
ご当主には、多恵だと既にお話しておりますため、多恵のその野望と、私が多恵にする抑制の狭間で、彼は強引に次期当主を決めようとなさいました。
この時期に朱羽さんの見合い話が持ち上がったのは、ご当主に隠れて、あちこちに暴走を見せる多恵を不安がっての、牽制の意味もあったのだと思います。
ご当主は、暴走と牽制と中和という、私達三姉妹の奇妙なトライアングルを崩すことで想定できるものを危惧なされ、多恵を追い出すことではなく、私にお任せになられたのだと思います。
彼も、体調が悪いことで後継者問題に神経質になり、その体調不良すら多恵やもしかすれば私に、なにかをされているのではないかと、すべてに対して疑心暗鬼になられていたと思います。