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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
沙紀さんなら使用人と対立しないで、迎合出来る道を築いていける。
恐れもせず怖がらせもせず、湧き上がる笑声こそが、美幸さんに出来なかったもの。
完璧さなんてなくてもいいんだ、ひととの関係に必要なのは真心なのだから。
……少しずつ変わりゆくものを美幸さんが見たら、なんというだろう。
厳しい面持ちをもっと厳格にさせて、怒るだろうか。
そう思ったら、なんだか切なくなった。
「陽菜。今日あたりもうそろそろ会社に戻ろうと思うんだ。結構休んでしまったし、これ以上は甘えたくないからね。こんなにハイペースで勉強したのは、大学以来かもしれない」
あたしが廊下の雑巾がけをしていたら、その横に朱羽が屈み込んでそう言った。
「……そうか、早く皆に会おうとして頑張っていたんだね」
よしよしと頭を撫でてあげると、こつんとあたしの肩に寄りかかってくる。ひさびさの朱羽の温もりが愛おしくて、その頭の上に頬を寄せてしまう。
「……皆には連絡してくれた?」
「LINEで衣里や結城だけではなく、会長とか皆にも伝えたよ。朱羽はやったって。あたし達が望んでいた形を頑張ろうとしてくれているって」
「そっか……」
朱羽は口元を綻ばせた。
「今日帰るなら、連絡しておく?」
「……いや、驚かせてやりたい」
悪戯っ子のように朱羽は目を輝かせた。
今頃皆なにをしているだろう。
忍月コーポレーションの副社長は、既に解雇処分となりどこにいるのかわからない。
シークレットムーンを痛めつける者は、いなくなったのだ。
あとは、浮上すればいいだけ――。