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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
通されたのは和室。
重厚な木のテーブルと座布団がおかれただけの質素な部屋ではあったが、名取川家で嗅いでいた新鮮な藺草の匂いが鼻に漂い、あの時は緊張して萎縮していたのに、あの閉鎖された忍月家から円満に出れた今があることを、嬉しく思う。
ご両親側ではなく、衣里は向かい側にいるあたしの横に座った。
まずは当主が切り出した。
「こちらからお頼みしていたのに、破談をお願いするとは本当に申し訳ない。この償いは後できっちりとさせて頂くつもりだが、まずはその謝罪と共に、次期当主を渉に、そしてその次を朱羽ということにしようと思っておりますこと、先にお伝えしたいと」
当主は頭を下げた。
「つまり、次期当主になれる器がなかったものを、うちの娘と結婚させようとしていたと?」
衣里の父親は、机に置かれてある茶を啜る。
「はい。私は実力不足です。それなので、祖父と兄にしごかれながら学んでいきたいと思っています」
朱羽が頭を下げて言う。
「では忍月に入るのね? でしたら正式な次期当主になった時、また娘と見合いをしたいとでも仰るの?」
衣里の母親が笑いながら尋ねてくる。
渉さんが答えた。
「いいえ。朱羽はいずれ、横におります陽菜嬢と結婚させるつもりです。そして朱羽は、シートレットムーンに勤めさせます」
「つまり、財閥としがない一般企業を掛け持ちすると?」
「はい。私も忍月コーポレーションと掛け持ちすることになります」
すると衣里の父親が笑う。
「あっはっはっ。忍月コーポレーションは一流大企業だ。こう言っちゃなんだが、衣里も勤めている会社は……」
「忍月コーポレーションと同列にさせます」
渉さんは断言すると、さすがにご両親は驚いたようだった。