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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
 


「では、その"然るべき時"を楽しみにしています。その時にならなくても、またお茶を飲みに来なさい。社員をつれて」


「「はいっ!!」」


「では恒例の蘊蓄を申しましょう。

千利休の『利休道歌 (りきゅうどうか)』 のひとつに『規矩(きく)作法 守り尽くして破るとも 離るるとても本を忘るな』と言う歌があります。これは『守破離(しゅはり)』、日本での茶道、武道に留まらず、すべての作業においていえる、師弟関係のあり方のひとつを表わしています」

 今まで彼女の言葉を聞いたことがない渉さんと当主に比べ、あたしと衣里と朱羽は至って真剣だ。


「『守』の段階は、ひたすら師の教えを守り、『破』は、よりよい型を作るために今まで学んだ型を破り、アレンジする段階。『離』の段階では、従来の型から離れて、新たに自分の型を創造し進化出来る段階とされています」

 ああ、これは……。

「ご家族との関係、そして忍月財閥について。今あなた達はどこの段階に来ているのか、どこに進めばいいのか。道を間違えず、より強い絆で結ばれて下さい」

 当主は思うところがあるのか、憂い顔で考えていた。

 忍月で言うのなら。

 『守』しかできなかった当主。
 『破』をしようとしている渉さん。

 そこからふたりで、あるいは朱羽が『離』を遂行できた時、忍月財閥は不動のものとなるだろう。


 言葉で言えば容易く、そこに行き着くまでは難しい。

 それでも言葉は、指針になる。


「ご拝聴、ありがとうございました」

 あたしの師匠である名取川文乃は、あたしには真似出来ないほど素晴らしいお辞儀をして、場をしめた。

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