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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
***
東大付属病院――。
衣里は姫のプライドにかけてか、名取川文乃が言った「酷い顔」を気にして顔を整えてあとから来るということで、あたしは酷い泣き顔のまま、朱羽と渉さんと当主と共に病院に来た。
うん、衣里との違いは女子力の違いとも言えるね。
いつものように社員の何人かは病室にいると思ったが、なんと会長ひとりきり。それでも看護師とすれ違ったから、きちんと会長の体調チェックはしていてくれるのだろうが、皆どうしちゃったのだろう。
「月代会長。鹿沼、ただいま戻りました!」
元気よく挨拶するあたしの顔を見るなり、会長は破顔して「来たのか、カワウソ~」と大きな声を出した。
会長にはスマホから逐一報告していたから特に質問攻めにされることはなかったけれど、社長はあたしと朱羽を手招いて呼び寄せ、頭をぐしゃぐしゃと撫でて喜び、
「よく戻って来たな、お前達」
そう涙声で笑い、当主に頭を下げた。まるで実の父親のように。
「ありがとうございます忍月さん。そして渉も、よく決心したな」
「月代さん、俺……やれるところまでやってみます。俺はひとりじゃないですし。朱羽が沙紀が、カバがいてくれますから。わからないところは祖父もカバーしてくれるそうなので」
「そうか。……うん、そうか。……渉、頑張れよ。俺もシークレットムーンの社員達も、お前を支える。あいつら、お前にずっと感謝をしていたからな。むっちゃんが頼りなかったら、扱いていいぞ?」
「はは。わかりました。……月代さん。シークレットムーンを、お借りします。守って貰いながら、俺も守ります。あなたのムーンを、結城と共に」
「ん」
手招く会長の腕の中に、もうひとり加わった。
「……っ」
それを当主は、羨ましそうに見ているのを感じた。
こうやって、渉さんや朱羽にも懐いて貰いたいのだろう。他人の方が血よりも濃い繋がりがあるのは明らかだ。
……会長は、朱羽の父親に可愛がられたと言っていた。
子供子供とナーバスに言う前の彼は、会長にどんなことをしたのだろう。
会長が、ここまで懐の大きい男となり、あたし達を救うようになるまで、どんなことをしたのだろう。
すべてが繋がっているのなら、どこに起点があるというのだろう。