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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
 

「会長、衣里戻って来ますよ」

「そうか。むっちゃん喜ぶぞ」

 自身はどうなのか、会長は感想を避ける。
 
 あくまであたし達に平等な"親"の顔で、彼の中の真情を隠す。
 それでも、嬉しそうな顔はしているから、なにも言わないことにした。

「正直、結城が動くと思ってませんでした」

「なんだ、むっちゃん動いたのか!」

「あれ、なにも言わないで結城ひとりで動いたんですか?」

「ああ、突然なにも言わないでふら~っといなくなって、ふら~っと帰ってきて。お前から聞くとはな」

 意外にも会長に話してなかったようで、会長も純粋に驚いていた。彼もまた、結城はひとりで衣里奪還に動かない、と思っていたのだろうか。

「あたしまたてっきり、皆でそう話し合って結城が代表したのかと。だったら結城、ひとりで動いたんですか? 衣里のために」

「ああ、そうなるな」

 あたし達は同期で仲がいいとはいえ、結城と衣里ふたりでどうこうということはなかった。必ずあたしが間に介在していたような感じで、いつも結城は衣里の毒舌から逃げているフシがあったのに。

「……あたしと連絡とってたのに、なにも言わないで、結城……」

 悔しいが、そういうところが結城のよさだ。

 決して自分の株を上げるためには動かない。
 彼にあるのは見栄というより、優しさから生まれた誠意なのだ。

 同期として社長として、衣里を犠牲にしたことに責任を感じて?

 それとも――。

 眉を潜めたあたしを察したのか、朱羽は笑って言った。

「……意識的か無意識的かわからないけど、彼もまた、過去を『守』る段階から、『破』る段階にきたのかもしれないね」

「なんだ、香月。守るとか破るとか」

「いえ、独り言です」
 
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