この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
「会長、衣里戻って来ますよ」
「そうか。むっちゃん喜ぶぞ」
自身はどうなのか、会長は感想を避ける。
あくまであたし達に平等な"親"の顔で、彼の中の真情を隠す。
それでも、嬉しそうな顔はしているから、なにも言わないことにした。
「正直、結城が動くと思ってませんでした」
「なんだ、むっちゃん動いたのか!」
「あれ、なにも言わないで結城ひとりで動いたんですか?」
「ああ、突然なにも言わないでふら~っといなくなって、ふら~っと帰ってきて。お前から聞くとはな」
意外にも会長に話してなかったようで、会長も純粋に驚いていた。彼もまた、結城はひとりで衣里奪還に動かない、と思っていたのだろうか。
「あたしまたてっきり、皆でそう話し合って結城が代表したのかと。だったら結城、ひとりで動いたんですか? 衣里のために」
「ああ、そうなるな」
あたし達は同期で仲がいいとはいえ、結城と衣里ふたりでどうこうということはなかった。必ずあたしが間に介在していたような感じで、いつも結城は衣里の毒舌から逃げているフシがあったのに。
「……あたしと連絡とってたのに、なにも言わないで、結城……」
悔しいが、そういうところが結城のよさだ。
決して自分の株を上げるためには動かない。
彼にあるのは見栄というより、優しさから生まれた誠意なのだ。
同期として社長として、衣里を犠牲にしたことに責任を感じて?
それとも――。
眉を潜めたあたしを察したのか、朱羽は笑って言った。
「……意識的か無意識的かわからないけど、彼もまた、過去を『守』る段階から、『破』る段階にきたのかもしれないね」
「なんだ、香月。守るとか破るとか」
「いえ、独り言です」