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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
一度家に立ち寄り、着物からいつもの黒いスーツを身につけ、化粧をし直して髪をまとめた。
……うん、想像以上にぶちゃいくな泣き腫らした顔が、幾らかまともになってよかった。これは酷かったよ。
初めて朱羽をあたしの家の中に招いたら、朱羽は目をきらきらと輝かせて、モノトーンで面白みもないあたしの部屋に飾られているものを眺めていた。
「これはなに?」
「ねぇ、これもって来なよ」
「俺、あなたが着替えている間、荷物つめていてあげようか?」
朱羽は着替え中、あたしがいる部屋には入ってこなかったが、同室にいるかのようにひっきりなしに声が聞こえて苦笑する。
女部屋に興味津々のようだ。
「お待たせ。朱羽の家に行く用意はいらない。前の置いたままだし、あたしひとりだけおじゃまして、後で必要なの取りに戻るから」
「ん」
朱羽は嬉しそうに微笑んだ。
そしてすっと顔から笑いを消す。
「では、鹿沼主任。行きましょうか」
それは会社モード。眼鏡を冷ややかに光らせて。
「はい。行きましょう、香月課長」
あたし達は笑い合うと、手を握って会社に向かった。
今日は外は快晴。
平日だからか、いつも満員の電車も乗客が少ない。
それでも集まる朱羽への視線を遮るようにあたしは頑張る。
電車を降りて歩き、目的地に到着した。
「………」
あたしは聳え立つビルを見上げる。
懐かしのOSHIZUKIビル。
今まで毎日通ってきた。
昔と変わらず、陽光に反射して眩しいほどに、ピカピカに磨かれている近代的ビルディング。……誰もが憧れる素晴らしい環境。
主任となって肩書きがつくようになって、今まで以上に仕事を頑張り、仲間達と守ってきた……あたしの大好きな会社がこの中にある。
この中で働いた穏やかな二年より、朱羽が来てからの目まぐるしい出来事の方が記憶に焼き付いてはいるものの、変わらずあたしが愛情を注いだ会社、シークレットムーン。
ムーン時代のあんなオンボロ会社が前身だったなんて、到底信じられない。大出世して大きなシークレットムーンとなり、結城が社長となった会社はさらなる飛躍を遂げるだろう。
あたしも朱羽も、その新たな時代の担い手となる。
そして――。
朱羽と再会したあたし達の歴史は、途切れることなく続くんだ。