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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 

「だけど結城、勘違いしちゃうじゃないですか。ホテルって……」


 小声で言うと、課長はあたしを見た。
 
 ちょっと前まではあんなに情熱的にいやらしいキスをしでかしながら、オンオフ切り替えて何事もなかったかのようなすました顔を向ける上司は、


「言ったでしょう?」


 顔を近づけてきて、あたしの耳に囁いた。


「セックスしましょうと」


 離されたその顔は――、


「な!!」


 あの、濃厚なキスが続いているかのような、男の顔だった。


「や、やめてください。職場でそんな冗談は」

「冗談?」


 目が愉快そうに細められる。


「私が冗談を言うようなタイプに見えますか? だから今はこれで我慢しているんです」

 見せられたのは、彼の手にある深煎りブラック珈琲。

 それは自販機の中であまりに苦すぎて目が冴えるため、徹夜覚悟の仕事をする社員が飲む、定番ドリンク。

 いつぞや結城が飲んでいた、眠眠打破より効力があるらしい。

「が、我慢って……」

「当然でしょう? あなたのように化粧で隠すことが出来ない私は、鎮めないといけないので」


 その意味するところがわかって、真っ赤になったあたしの前で、課長は自分の唇に伸ばしたひと差し指をあてた。


「静かに。今周りにひとが少ないとはいえ、ここは会社ですよ? さっきの続きは、終業後に」


 さっきまであたしの唇を激しく貪っていた、彼の唇を強調して見せるかのように、その仕草はやけに官能的にあたしの目には映った――。

  
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