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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 

 ***


 OSHIZUKIビルディング、テナント共有階となる五階、食堂――。

 ビル内の企業に勤める社員であるのなら、300円で日替わりランチを食べられる、夢のような場所、その名も「パラダイス」。

 清潔な白色で統一されたこの場所は、食堂という古くさい言葉が全く似合わない、洋風の洒落たカフェのよう。

 勿論ここには、他社の社員も集っている。

 こんな素敵な場所を、あたしがあまり利用しないのは、ここには忍月本社の社員も利用するため、玉の輿狙いの、化粧や髪型にばっちり気合いを入れた女子社員の猫なで声が妙に響き渡るからだ。

 合コンかっちゅーの!!

 口を開けば結婚、結婚……あんた達は、実家の母かっちゅーの!!

 恋愛より仕事の方が楽しいだけなんだよ!!


 本当はここには来たくなかったけれど、弁当を作っていないしコンビニから買ってくるのも面倒。しかも今日は、自席でお昼なんて、羞恥プレイすぎる。

 食事を載せたトレイを手に、人に見つからなさそうな、階段の下の特等席に座る。


 メール担当だった江川くんを使ったらしい三橋さんは、江川くん共に急な体調不良で早退してしまったため、真偽のほどはよくわからない。

 なんで来たばかりの課長まで巻き込んで、しかも課長の名前で出さないといけなかったのか、そこらへんは不明なままだ。

 幾分かは朝のような奇異なる視線は和らいだけれど、やはり疑っている女の子も居て、本当かどうかを聞きに来る猛者もいるけれど、

――ちょっと鹿沼主任、いいですか?

 いつもどこからか現れる課長がにっこりと綺麗な笑みを浮かべて現れ、用件ではなくあたしをじっと見て、わざとらしく指であたしの唇を半開きにさせ、誰の前でも指で唇を触れてくるのだ。

 その触り方もまた巧妙で愛撫のように仕掛けてきて、自分の薄い唇もほんの少しだけ開ける。あたしにはキスを意識させ、他の子には清い仲ではないことを見せつけて。
 
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