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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
 

 
 苦しい過去を持つゆえに、運命という単語を使いたがらない朱羽。

 運命に頼らなくても、あたしと朱羽が出会えたのは必然。

 ……月代会長が作ったシークレットムーンが、引き合わせてくれた。

 隠された月の引力が、あたしと朱羽を――。


「よし、じゃ入ろうか」

 シークレットムーンの前――。

「うん……と言いたいところだけれど、改まったらなんだか緊張してきた。見慣れた場所なのに、初めてきたような感じ」

「なんでだよ? あなたは俺より、長くここで働いていたんだろう?」

 朱羽は苦笑する。

「そうなんだけど、心境の変化かな。こうやって仕事着で、穏やかな気分で会社に出るのが久しぶりすぎて。会長が倒れてから、会社に行かないと理由がない限り病室にいたしね。……営業やらせて貰えなかったし」

「営業は駄目! あなたを営業させないように、結城さんとタッグ組んでるから」

「だけど、新人も頑張っているのに、主任ごときがふんぞり返って内勤というのも……」

「自業自得だ。あなたは内勤、もしくは俺が一緒!」

 朱羽の目がくわっとつり上がる。

「はは……」

 笑いながらも、少し指先が震撼して、あたしはきゅっと手を丸めた。
 気づかれないようにしたつもりだったが、その手を覆うように朱羽が大きな手をかぶせてくる。

「俺がいるだろう?」

 最初に見た……ひとを弾く分厚い氷が融解した、温かな茶色い瞳。

「いつでも俺は、あなたの隣にいる。俺はあなたの恋人でありながら、あなたの上司であり仲間だ」

「……うん」

「いつでも傍にいる。だから不安になることはない。俺が守ってあげる。胸を張っていつものあなたでいて。皆が慕う、WEB部の主任に」

「うん!」

 朱羽に背中を押されながら、深呼吸をして数秒息を止める。

 よし!


 そしてあたしは足を踏み出し、半透明ガラスの自動ドアを開けた。


「皆! 久し……」

 ぶり、と続けようとしたその瞬間――。


 パーン。
 パーン。
 パーン。


 クラッカーの音があちこちから鳴った。
 
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