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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
 

「はぁい、陽菜。手伝ってよ。この筋肉馬鹿がさ、私がちょっと後で陽菜と香月が来るかもよ、と言ったらお祝いしようとか言い出して。開店休業よ、シークレットムーン」

 衣里は困ったように笑った。

「そしたらこの馬鹿、私を特別扱いしないでいつも通りに扱うからって、パシリにさせるのよ!? なんでパシリだと思う!? その筋肉なにに使うっていうのよ!! ケーキ屋に筋肉いらないでしょう!?」

「ははははは」

「ちょっと!! なによその『おたんじょうびおめでとう』って! ばっかじゃないの!? なんで誕生会にしてるのよ!?」

 いつも以上に、社長相手にクールビューティはクールを返上して辛辣だ。

 ……だけどあたしはわかる。

 衣里もシークレットムーンに戻って来れて、そして欠けた社員がいないのが嬉しくてたまらないのだ。

 結城のおかげで、衣里も居れる。

 その感謝を隠して、必要以上にツンツンしているだけだ。それがわかるから、見ている者達は誰も止めない。ただのじゃれあいだから。

「これしかなかったんだよ。別にいいだろう? 祝う気持ちは同じなんだし」 

「ケーキ屋なのにプレートの文字、それ以外作って貰えなかったの!?」

「作って貰えるのか? 知らなかった……」
 
「私に相談してみればいいでしょう!? 菓子の材料売っているところが近くにあったんだから! そしたらプレートを作る材料買ってきたのに!」

「そんなのあるのか!?」

「なかったら、誰がこのケーキのプレートを作るのよ!? しっかもなに本当にロウソクに火をつけているのよ! この馬鹿っ!」

「馬鹿馬鹿言うなよ、社長様だぞ!?」

 結城はぶーたれながらも、怒る衣里を優しく見つめている。

 彼に心境の変化があるのだろうか。

 いつもしょげているか苦笑しているかだった結城だったけれど、今……微妙な変化は確かにあるような気がするのだ。

 結城が自覚しているのかいないのかよくわからないほど、些細なものだけれど。信頼が増したからと言われたら、納得してしまうレベルでのものだけれど。

 相手が衣里なら、あたしは喜んで応援したい。
 
 いつの間にか、結城の隣に立つようになった衣里なら。


 もしも叶うのなら。
 あたしに縛られた結城と、会長に思い悩む衣里の時間も、動き出して欲しい――。

 
 
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