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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
「……ということで、真下を含めた帰還祝いと誕生会を始める」
一番近い誕生日は朱羽で、あたしが次点だった。
「主役かよ、つまんねー」
結城が笑う。この笑い顔を見ると、会社に帰ってきたと実感する。
「よし、じゃあ香月。"ふー"しろ」
「ふー?」
「ふーだよ、火を消すんだよ。よく子供がやってるだろ?」
結城の余計なひと言は、なにやら朱羽の琴線にひっかかってしまったらしく、朱羽の片方の柳眉が途端に跳ね上がった。
「嫌です」
「なんでだよ、主役はふーするのがお約束だろ!? お前の代わりに、鹿沼にやらせるのか? お前男なら、鹿沼にやらせるなよ!?」
少しばかりずれているような気がしないでもないが、またぴーん朱羽のと眉が跳ね上がる。思うところがあったのだろう。
「男なら、"ふー"をするものなんですか?」
「おー勿論。……お前誕生日にホールケーキ食ったことねぇのか?」
「ありません」
「カットケーキは?」
「ありませんが。陽菜が祝ってくれた今年の誕生日以外、いい思い出がありませんので」
眼鏡のレンズがキラーンと光る。
当然ながらあたしに視線が集まった。
……朱羽、余計なこと言わなくていいから。
自慢しているような様子だが、確かに沙紀さんも朱羽は誕生日にいい思い出がないようなことを言っていたから、公言していたのだろう。
あたしが用意したケーキを、あんなに嬉しそうに食べていた朱羽を思い出す。
彼は、子供なら当然辿っている道を歩いてこなかったのだ。
あたしですら、誕生日にはケーキが定番だったのに。