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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon

――失礼、致しました!!
沸騰しそうなほど真っ赤な顔で走り去る後ろ姿を見て、課長が壁に背中を凭れさせ、腕を組みながら笑う。
――ふふ、あの分なら大丈夫そうですね。私達が恋人同士だと吹聴してくれそうです。
――ひ、ひっ!!
――どうしました? しゃっくり?
――違います!! 人前でなにをするんですか!!
――なにをって、唇がてかっていたので触っただけですが。ああ、この光るのグロスって言うんですよね? これがやけに甘そうで。
彼はあたしの唇に触れた親指を自分の口に含むと、意味深な目を細めてゆったりと笑う。
――本当に甘い。
扇情的な顔で。
甘いわけねーだろ!!
そう言いたいのを我慢して、ふんと顔を横にそむけて課長の前から去ろうとしたが、大きくよろけた。途端に愉快そうに声をたてて笑う課長をキッと睨み付けて、カツンカツンと思い切り規則正しく去った。
掌の上で転がされているようで、腹立たしい。
絶対わかっているはずだ。
何気ない仕草に、勝手にいやらしいこと考えて、勝手に課長の男を意識して、ドキドキしてしまって、また腰にきたこと。
職場なのに、あなたなにするのよ!!
あたしもなにやっているのよ!!
九年間で彼は変わったようだ。
女に興味ない顔をしているのに、翻弄するのがうまい。
なにが本命には優しく、他には冷たくよ。だったら本命の(※仮)チサちゃんがいるのに、あたしにこんなことをして悪いと思わないの!?
プリプリとドキドキは、表裏一体。
顔から熱さが消えない。
あのキスが、忘れられない。
――話をしたいと言ったでしょう? ……真剣な話だから、これが終わっても俺の傍にいて下さい
そう言えば、あの真剣な話はどうなったのだろう。
あれ以降、まるでその話はしないけれど。
――セックスしましょう。
まさか、それが話だったとか!?
「するか!!」
あたしは食堂で叫ぶと、一気に思い切りうどんを啜った。

