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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
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カタカタカタ。
朱羽から、軽やかにキーボードを叩く音が聞こえれば、
カタカタカタカタ。
あたしも負けじとキーボードを叩く。
カタカタカタカタカタ。
む、負けないぞ。
カタカタカタカタカタカタカタカタ……。
「うるせーぞ、鹿沼、香月!」
「仕事してるのよ、仕事!」
「WEB、陽菜に仕事押し付けたの!? 木島~っ、あんたはサボり!?」
「ち、違うっす、そんなにカタカタする重い仕事、ないと思うっすが」
「あははは、ごめんごめん! ちょっと、運動不足だった指が元気なのよ」
やじまホテルのディスプレイを納品するにあたり、菱形タブレットを頼んだ斎藤工務店から、最終確認としての細かなサイズなどの問い合わせ事項をわかりやすいように表でまとめていた。
朱羽のおかげで、あたしが下と綿密な打ち合わせをする作業は減ったとはいえ、監督としての位置には立ち、朱羽は総監督だ。
あたしのいない間、木島くんの作ったものを朱羽はチェックしたらしい。
さらさらとパソコン上で修正しながら指示したものは、サンプルながら……期待を裏切らず素晴らしいセンスだったようで、木島くんが対抗心を燃やしてしゅうしゅう言いながら頑張っているようだ。
そんな木島くんを見てデザイン課も奮起している。
……今空いている端の席に、千絵ちゃんは座っていたのだ。
あたしが忍月に居る間、途絶えていた千絵ちゃんからのLINEが来た。
『兄が優しくなりました』
……ただそれだけ。
それだけの理由で、千絵ちゃんはあの時助けてくれたのかなと思うと、彼女の根底は変わっていないように思えて、心がじんわりと熱くなった。
いつか、戻ってきてくれないだろうか。
彼女が罪悪感に耐えられる時が来たら、彼女のおかげでこうにまで仕事にやる気を見せて、一致団結した社員を見せてあげたいのだ。
彼女は、会社は結婚のための腰掛けだと言った。
だけど今残っている女性社員は、そんなお気楽に仕事をしていない。
……スポ根一直線のシークレットムーンを見せてあげたい。
――うふふふふ。主任~。
ふわふわとした千絵ちゃんに。