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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
***
「会長、すごく嬉しそうだったね」
病院からの帰り道――。
朱羽と冷え込む夜道を歩きながら、それまでのことを思い出したあたしは、冷風に凍えた頬を自然と緩めてしまう。
「子供達のために用意したものを、子供達が守ったんだからな。これ以上嬉しいことはないだろう。こんなに上と下が仲がいい会社、他にないと思うよ。だからこそ、一丸となって危機を乗り越えられたんだ」
「そうだね」
災い転じて福となす――。
きっとこの先また危機が訪れても、乗り越えられる自信がある。
これだけの窮状を、皆で乗り越えてこられたのなら。
バックにシークレットムーンを潰そうという悪意を持つ人間はいなくなった。代わりに得たのは、強くて頼もしい援軍。
駆けつけてくれた矢島社長であり、あたしを指導してくれた義母の名取川文乃であり、衣里の自由を許した真下家であり。そして財閥の当主となる渉さんであり、孫の可愛さに覚醒した当主もまた、朱羽になにかあれば黙ってはいないだろう。
失うものはあったが、得られたものの大きさは計り知れない。
「陽菜。名取川さんのこと、お母さんって呼ばないの?」
朱羽が笑いながら尋ねてくる。
「たくさん本当の子供がいるし、あたしが呼んだら問題があるような……」
「だけど女の子はいないんだろう?」
「ん、でもさ……。お母さんって呼んだら、他の子供達が財産目当てに乗り込んできたって思うじゃない? 名取川さんの善意が悪くとられちゃう」
「はは、財産ね。陽菜は万が一のことがあったら、相続したいの?」
「ううん! そこはちゃんと放棄する。財産以上に、たくさん貰った"親の愛情"で満足だから」
始めから思っていた。
名取川家は資産家でもある。
相続に関する法律上の権利はすべて放棄して、実子に譲ろうと念書を書いて渡したいと思う。
それで彼女の実子が納得してくれるかわからないが、罪もない彼らを不安にさせたくはない。
「あの名取川さんは陽菜だから養女にしてくれたんだと思う。誰でもいいっていうわけではない。ふたりの時は、お母さんって呼んであげると、喜ぶと思うよ?」
「ん……。今度呼んでみる」
亡き母に代わって――。