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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 


「あの、なにか?」

「い、いや……ちょっと待って」


 すると彼は、胸ポケットからスマホを取り出して電話した。


「俺だ。鹿沼陽菜って、カバみたいな女だな。すげえ口と鼻の穴広げて、うどん吸い込んでるぞ。お前、カバ好きならちょっと見に来い。五階の食堂だ」

「ちょっ、なにを……どこに電話かけたんですか!」

「俺の知り合い。あいつ昔カバの図鑑見てたからさ。他の奴も呼ぼうかな」

「呼ばないで下さい! ちょっとむしゃくしゃしたから、ちょっと啜っただけじゃないですか」

「それがカバ……、いやまあカバも愛嬌あるから、お前も可愛い……かな?」

「あたしはカバじゃなくて、カワウソです!」


 立ち上がりざまにそう言うと、男も女達も爆笑だ。

 くそっ、カバよりカワウソの方が可愛いかもと思って、言い方を間違っただけじゃないか。

 初対面から"お前"呼ばわり。なんて失礼な奴なんだ。

「なんでこんな暗いところにいるんだ? お前ならそこそこ男をひっかけられるだろうに。まあ、カバ好きの男をだけど。くくく……」

「余計なお世話です! あたしは男を漁りにくる女ではないので」

 キッと周りの十数人の女達を睨んでやった。

 嫌われたっていいもん。

 もうここ、来ないし。

「お前、忍月の噂、信じてねぇの?」

「それはあれですか? テナントの会社に忍月財閥の隠し子がいて……という? 確か母方の姓を名乗っていて、本社から監視役も派遣されているとか。勝手な後継者争いの犠牲になっている」


「そうそう。だから当たりを引き当てれば、本気に玉の腰じゃないか」

「そんなものより仕事していた方が楽しいですので」


 つんとして言うと、男が身を乗り出して言った。


「実は、俺がその隠し子なんだけど」


 魅惑的な黒い瞳。

 ちょっと揺れてしまったあたしはすぐに目をそらした。
 
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