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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
衣里が髪を掻き上げながら言った。
「香月、簡単に言うけどさ、渉社長に頼むってこと?」
……数日前、渉さんは社長職に無事に就任した。
朱羽曰く、ホテルの大広間を借りた就任パーティーに向島専務も来たらしく、渉さんとにこやかに握手をしている写真を、傍の誰かが撮ったものが経済誌にばらまかれ、『手を取り合う未来の財閥当主』などと書かれたそうで、向島に常に漂っている悪い噂を、渉さんの祝い事にぶつけて、少しでも払拭しようとしていたらしい。
渉さんと友達に戻りたいくせに、その友達を利用するのは、さすがは向島専務と言うべきか。
「色々方法はありますが、渉さんに動いて貰う方が早いでしょうね」
「朱羽、それ以外に選択肢、まだあるの?」
朱羽は、「ひとつは、忍月コーポレーション」と前置きした。
だとしたら、二つ目はあるのだろうか。
「もうひとつは、向島開発」
「な……」
「あちらは人員が忍月コーポレーションより多いのに、個々の技術力が追いつかない。プログラマーとして使えそうになくても、これから全国のやじまホテルの設置が入ってきたら、設置くらいは役に立つ。吸収が無理なら、提携という形でもいい」
「香月! あの向島専務が、OKすると思うか!?」
「させるんです。そういうのは、結城さんや真下さんが得意でしょう? 卓越した営業力をフル活用して下さい」
さらりと、当然出来るよね?くらいの冷ややかな眼差しが、結城に向けられ、結城が泣きそうな顔になった。
「……まあ、否とは言わないと思うんですよね、あの専務」
「なんで?」
朱羽は少し考えるような素振りを見せて、あたしに言った。
「ん……。三上さんを諦められないから。接点があるのなら喜んで飛びつきそうな気もする。結構そこらへんあのひと、ひとより単純に出来ていそうに思うんだ。器用だったら、今頃三上さんと幸せにやってるさ」
結城と衣里と、なんとも言えない顔を見合わせる。