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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
「言って……くれましたっ」
――陽菜、初めてのふたりの仕事、成功だっ!
「シークレットムーンの課長としては、主任のあなたの働きになにも言っていない」
こんな格好だということを忘れさせるような、あたしのすべてを包み込む、頼れる上司の眼差しで。
「よくやってくれました。やじまホテルの評判がとてもいいそうです。これが次に繋がるでしょう。あなたが、身体を張って形にした仕事です」
やじまホテルで、沼田さんがセクハラ社長だと思って、服を脱ごうとしたあの時の緊張感。社命を受けて矢島社長にどうしても仕事を貰うために、何日も前から作っていた提案書を却下された時の絶望感。
「課長がいたから……っ」
観察力と知識に溢れた朱羽がいたから、矢島社長との繋がりは消えることなく。
「いいえ。私はただあなたの補佐をしただけ。私だけなら矢島社長は、話も聞いてくれなかった。あなたを気に入って信用してくれたから、こちらが提案するものを金額を聞かずに了承してくれた。長年の付き合いがある取引先ならまだしも、矢島グループは新規の顧客。それでここまでさせてくれるなど、普通なら考えられない」
特殊なタブレットが形になってホテルに飾られ、皆に喜ばれている光景と、沼田さんが「社長のあの嬉しそうな顔。これなら、来年他のホテルも導入する予算を捻出しなきゃならんですな」と頭を掻いていたの思い出す。
まだどうなるかわからない。
だけど、あたし達がしたことは、決して徒労ではなかったと実感した、あの充足感に満ちたあの瞬間。
目にじんわりと涙が溜まってくる。
朱羽は眼鏡のレンズ越し、優しく目を細めて微笑んだ。
「お疲れ様でした。会長からのミッション、完了です」
目頭が熱くなり、ぽたりと涙が零れるのを感じながら、あたしも笑った。
「課長も、お疲れ様でした!」