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いじっぱりなシークレットムーン
第14章 Secret Moon
 

「だったらなぜ!」

「だからこそ、引き摺らせたくなかった」

 会長は翳った顔で、力なく笑う。

「俺は長くないとわかっていた。わかっているのに、俺の元に来てくれなんて言えない。いつ死んでもおかしくない身体で、衣里を縛ったまま残せない」

「会長……」

「抱くことも出来ない、子供も作れないんだ、俺は。男としてなにも出来ない俺は衣里に、俺の代わりの子供も残してやれない。衣里のためを思うのなら、衣里を拒んだまま……消えるのが良い。俺も未練を残したくないんだ」

 会長の気持ちも、痛いほどわかった。

「衣里に、俺ではない違う相手との人生を始めて欲しいんだ。たとえそれが、息子でも……」

 会長も感じているのか。

 衣里と結城の距離が縮まったのを。

「睦月でも……祝福する」

 会長の目は潤み、青ざめた唇が戦慄いていた。

「衣里に言わないでくれ。頼むから……」

「わかりました……」


 クリスマスではしゃぐこの日に、会長の切ない心が痛くて。


「会長」

 あたしは会長の背中に手を置いて、言った。


「メリークリスマス。会長の下にも幸せがきますように」
 
 すると会長は笑った。

「メリークリスマス。俺は、お前達子供が仲よく会社を守ろうとしてくれているのが、幸せだよ」

「だったら、会長はずっと幸せです」

「ああ、そうだな」


 その時だ。


「はああああああ!?」


 そんな声がしたと思うと、バタンとドアが閉められる荒い音がしたのは。


「会長、失礼します。見てきます」

「ああ」


 見ると、場はシーンと静まり返り、結城と衣里だけではなく全員がドアを見つめていた。

 
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