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いじっぱりなシークレットムーン
第2章 Nostalgic Moon
 


 真下衣里というのは、あたしと結城と同期でムーンに入った女の子。彼女はさばさばした性格で、やけに結城に対抗心を燃やした同じ営業課だけれど、この春晴れて結城が課長になったから悔しがっている。

 大手企業からの契約をとりつけるやり手の子で、常に結城と共に飛び抜けた営業成績を残しているとか。

 冷たい印象のお姉様系の美人だ。
 

「それより」

「そんな程度かよ!」


 結城の突っ込みは聞いていないふりをして、あたしは聞いてみる。


「そういえば結城、席に大分いなかったね。なんか顔色悪いけど、もしかして、ピーゴロゴロ? 正露丸いる?」

「そんなわけねぇだろ! 専務に呼び出されてたんだ」

「ああ、なにかやらかしたの?」


 珈琲を飲みながら、上目遣いで結城を見る。

「う」

「う?」

 短い奇声。頭を下げると結城は頭をがしがし掻いた。

「なんでもねぇけど、今日お前のところに中途採用した"課長"が来るって」

「え、二年空白の?」

「そう、しかもそいつ年下だって」

「あたし聞いてないよ、なんで結城が専務から聞くのよ。普通、あたしの上司なんだから、あたしに言わない?」

「俺もそう思った。だけどまあ、俺も営業課長だしな」

「ああ、嬉しそう。結城課長!」

「よせって」

「なに赤くなっているのよ、課長課長!」

「ああ、はいはい。課長です」


 結城は照れながら、右手を上げた。


「なあ、鹿沼」

「なに?」


 あたしは――、


「満月近いけど、身体大丈夫か?」


 ……真実を知る、結城の存在に救われている。

 
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