この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon

***
午後二時半――。
比較的静かなのは、皆がこちらを意識しているせいなのかもしれない。
カタカタカタ。
バチバチバチ。
カタカタカタ。
バチバチバチ。
WEB部、隣り合わせた席からは、キーボードを打つ音の応酬。
言葉はない。
カタカタカタ。
バチバチバチ。
カタカタカタ。
バチバチバチ。
「……主任。そのバチバチなんとかなりませんかね? 気が散るんですが。あなた素人ではないんでしょう?」
眼鏡のレンズがキラーンと光る。
カッチーン。
「それは失礼致しました、課長。いつぞやの課長の真似をしてしまったもので。気をつけますわ」
カタカタカタ、カタカタカタカタ。
手を伸ばせば、課長は届く距離に居る。
そのせいか、会社に戻ってからもずっと繋がれていた手が熱い。
さすがに会社に入る時は手を離したけれど、昨日もぎゅっと握られた感触、手のひらに熱い唇を押しつけられた感触、熱い舌が這う感覚――。
思い出す度に身体が熱くなってくる。
そんな風にいまだひきずっているあたしとは対照的に、課長は何事もなかったかのように平然と、隣でカタカタを始めたのが「お前馬鹿? 色ぼけしてないで仕事をやれよ、この雌豚!」と罵られている気がして、意固地になったのだ。
負けてたまるかと。
「主任、これちょっと和訳してわかりやすくまとめて貰えますか?」
プリンタで打ち出したのは、英語と数字だらけでチカチカする紙。それをどっさりとあたしに渡した課長は、にっこりと笑う。
「どうせ、今までのあなたの仕事はタブレットが代用してくれるでしょうからお暇でしょう? まさか国文科卒業だから、和訳や表計算は出来ませんとかは言いませんよね? 28歳にもなって。はい、どうぞ」
あたしにキスしたくせに!
あたしの手を握って、手のひらを舐めたくせに。
そうですね、意識してたのはあたしだけですよね!
どうせあなたは経験豊富な化け猫ですものね!
オンオフ激しいよ。どこにスイッチあるんだろう。

