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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon

「ワームの増殖率が高い。この調子でいけば、このサーバーも動かなくなる。RAIDはどうです?」
「うん、まだ切り替わっていないけれど、ワームが覆い尽くされれば、RAIDも無事かわからない。まずはRAID1、ミラーリングが駄目になる」
RAIDとは、本体から同時にデータを書き込んだものを保存する複数のHDDで、このサーバ室においては杏奈が立っている下の方に、ケースの中に横向きで上下に三つ並べられているものだ。つまり、香月課長が運んできたのと同じタイプの。
故障時には違うRAIDに自動的に切り替わって、何事もなかったかのようにサーバーが動き続けるらしいが、あたしは今まで故障したところは見たことがない。
理屈的には、切り替わったら、故障したRAIDを引き抜いてきちんとしたものを入れればいいが、サーバーがワームに侵されて動かないのものをコピーされても、RAIDもまたワームに侵されて話は終わらない気がする。
「バックアップは!?」
「一日一回、朝六時」
RAIDでつくるものはバックアップではない。ファイルを削除してしまったら、RAIDもまたそのファイルは消えてしまうが、バックアップは過去のある時点でのデータを複製するものであり、そのファイルは消えることはない。
「朝六時……、万が一の場合考えれば、ないよりはましか」
サーバがパンクしたらどうなるか。
社内ネットワークで管理されている情報は消えるだけではなく、WEBサイトなどうちのサーバを利用している企業にも損失が出る。
これはうちだけの問題ではなく、信用が失墜する――。
そう思っていたら社長が現れた。
「どうだ、香月」
状況を聞かないところ、既に課長は社長にも話を通していたのか。
「今日中がリミットだと思います」
「どうする?」
「BIOSも書き換えられ、"BB-wall"のインストールCDも認識しません。なので、"BB-wall"をここで作成し、ワームを払ってから、安全を確認して別サーバーに移行し、元通り"BB-wall"をインストールします」
「おいおい、"BB-wall"は百万近くもするファイアーウォールソフトだぞ!? そう簡単に作れは……」
結城が驚いた声を出すと、社長が笑った。
「あれを作ったのは香月本人さ」

