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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon



「課長。その手の冗談、いい加減にして下さい」


――セックスしましょう。


 頭の中に直球の誘惑がぐるぐる回る。

 まさかこんな時間に課長の家に行って、トランプして遊ぶとかそういうわけではないだろう。

 大人の女にそんなことを持ちかけるのは、身体の関係を作りましょうということだと、幾らなんでもあたしでもわかる。


「……本気だと言ったら?」


 笑ってすませばいいものを、やけに色っぽい流し目を、斜め上から落としてくる。

 上気した顔。

 少し汗ばんで乱れた髪。

 飲み物を飲んで濡れた、やけに赤い唇。

 ……なんなのこのエロい上司。


 だけどね。


「あたし、誘われたらついて行くような、そんなに安っぽい女ではないんです。そういう相手が欲しいなら、他の子にして下さい。課長くらいレベルが高い男性から誘われれば、きっと皆喜んでついてくるでしょう」

「あなたがいい」


 そんな熱っぽい目で見ないでよ。


「課長。だから……」

「なんで結城さんと寝たんですか? 昨日だけのことではないんでしょう? 私はこのビルに勤め始めて、あなたと結城さんがホテルに入るところを何度も目にしていた」


 課長のまたもや直球に、思わず怯んでしまう。


「それは……っ」


 見ていた?

 そうか、あたし達が気をつけていたのはシークレットムーンの社員で、あたしをよく知る社外の人間が見ているなど、露にも思わなかった。さらに言えば、香月朱羽という存在はあたしの心からは抹消していたのだ。

 やだ……。

 言い逃れできない。

 だけど言いたくないよ、直属の上司に満月のこと。


――気持ち悪いよ、お前。


 満月限定セックス中毒。

 だからあたしは、九年前あなたとセックスしたんです、とは。


――ありえねぇだろ、月が関係するなんてホラーかよ! この嘘つき女!


 怖い。

 ひとに言うのは怖い。

 結城のようにわかってくれる気がしない。
 
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