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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 


「あなたは男に誘われるとついていくような安っぽい女ではないという。だけど結城さんには恋愛感情がないという。じゃあ結城さんと寝ているのはどんな意味? セフレ? それとも脅されているとか?」

「違う……」


「結城さんとはセックス出来て、私を拒むのはなぜ」

「やめて……」

「九年前、誘ってきたのはあなただ。自分からならいいとか?」

「やめてよ……」

「じゃあ結城さんには、あなたが自分から……」

「やめてって言ってるでしょ!!」


 あたしは怒鳴った。


「あたしにとっての結城を詮索しないで下さい。あたしは結城に救われている。それを恋愛とかセフレとかで片付けないで下さい!」


 課長の目が細められた。


「九年前のことは忘れて下さい。あれはあたしの過ちでした。課長を傷つけてしまい、本当に申し訳ありません。このお詫びは、プライベートではなく、仕事で返します。だからそれで……」


 がしっと上腕を握られた。

 熱くて、力強い手が。


「嫌だ」

 熱く潤んだような瞳が、苛立たしげにぎゅっと細められた。

 
「過ちで終わりにするな」


 絞り出すような声が響いた瞬間、静かな結城の声がした。


「……帰るぞ」



   ・
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   ・


 あたしは課長と長く話し込んでいたらしい。

 戻れば、社長と衣里しかいなかった。


 帰り支度を整えて、五人でビルを出ると社長がまた労いの言葉をかけて、背広の内ポケットから小冊子を取り出した。

 タクシーチケットだ。


「僕は結城と乗っていくわ。カワウソは真下と香月と……」


 三枚も渡され、衣里がほくほくした顔をしてそれを覗き込む横で、課長が言った。


「社長。私、夜風にあたりたいので、別で帰ります」

「あ、そうか? だったら、お前にチケットやる」

「私は、前に頂いたものが残っていますから、それで。では皆さん、お先に失礼します」 

 呆気ないほどにさっさと後ろ姿を見せた課長。

 さっきのあの、激情のように掴まれた手を思い出した。

 熱い、熱いあの手――。


 ……ん?

 
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