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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon

「じゃあな、また来週! ご苦労さん!!」
社長が結城を乗せて先にタクシーを走らせた。
「あ、タクシー来たよ。陽菜、乗ろう」
衣里が手を上げて跳ねているの見て、あたしは衣里に言った。
「衣里、あたしのここ、思い切りぎゅっと掴んで?」
「は? 今タクシー」
「お願い」
タクシーの近づいてくるランプを見ながら、衣里があたしの上腕を掴んだ。ぎゅっと、課長が掴んだように。
「やっぱり……、熱いわ」
「陽菜? あ、ほら乗ろう?」
熱に潤んだ目。
上気した顔と唇。
汗ばんだ髪。
熱い手。
あれは欲情ではなく、課長は本当に高い熱を出している。
だからとち狂ったように変なことを言い出して、ひとりで帰ろうとしてたんだ。
……格好つけ! 倒れたら、どうすんのよ!
「陽菜、早く!」
タクシーの車内から衣里があたしを呼ぶ。
あたしは衣里にタクシーチケットを全部押しつけて言った。
「ごめん、ひとりで帰って。あたし、行かないといけないところがあるの」
「は、陽菜!?」
「運転手さん、すみません。あたしは乗らないんで、よろしくお願いします」
衣里が騒ぐがドアを閉めれば、タクシーが発車した。
両手を合せて頭を下げたままタクシーを見送り、あたしは課長が向かった方角に走った。
もしかして、早々にタクシーに乗って帰ったかもしれない。
だけどあたしには、課長がまだこの付近にいるような気がしたんだ。
「課長!? 香月課長!?」
暗闇に人影は見えない。
行き交う車のテールランプがうるさくてたまらない。
「どこにいるのよ!!」

