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いじっぱりなシークレットムーン
第2章 Nostalgic Moon
この男が、あたしを雇ってくれたムーンからの社長、月代雅(つきしろ みやび)。彼が作ったムーンは、恐らくこの苗字から来ているのだろうと思う。
後に、最初の面接時のあのちんぷんかんぷんな呪文のような英単語は、あたしがどこまで知っているのかを試すためだけのものであり、世のIT会社はそれを知っているのが常識……というわけではなかったらしいことを知った。
では、社長が延々と不可解な単語の質問を続けていたのはなぜか。
――だって困りまくる鹿沼、素直にわかりませんと降参すればいいのに、口尖らせて目を白黒して答え考えててさ、それが沼で溺れ死にそうなカワウソみたいで。僕、笑いを堪えるの必死でさ!
カワウソ自体どんなものだかあたしは知らないが、可愛いイメージではなかったのは確かだ。そんなこととは知らず、再挑戦を願い出たあたしに、社長がなにを思ったのかは聞くのはやめた。カワウソと似たり寄ったりだろうことはわかるから。
だが、なんでITに知識ないあたしを採用したのか、社長の心を動かす結城の説得はどんなものだったのか、親睦会という名の飲み会で、隣に座った社長に酒の力でこっそり聞いてみるチャンスに恵まれた時。
――だってさ~、文系育ち国文科卒業の鹿沼は、パソコンといってもせいぜい、大学の情報処理室みたいなところにあるパソコンのWordで卒論書いたくらいでしょ? そんなのがITバリバリできるなんて期待してないさ。僕が欲しかったのは、技術よりお笑い系。ばっちりだろ?
だから思ったのだ。意地でも、有能なところを見せてやろうと。
奮闘してしばらくして、結城に言われた。
――あ~あ、結局社長の目論み通りになったな。お前、半年で俺必要なくなるほど、自分で動けるようになったじゃねぇか。パソコンのこと、なにひとつ知らなかったのに。
飄々としている社長は、食わせものなのだ。