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いじっぱりなシークレットムーン
第2章 Nostalgic Moon
ムーン時代でも、お誕生日席に位置する社長席で寝ているか、欠伸ばかり繰り返してエロサイトを見ているか、「僕と遊んで~」と忙しい社員に構ってくる、うざすぎる社長であるのに、なにかあると皆が頼るのはいつも社長だった。そういう時社長は有能であり、トラブルがあってもしっかりと抑えて、いつもの二割増しに格好よく見える。
もっと大きな組織にいたのなら、もしかすると出世していたのかもしれないのに、なぜ古ぼけた会社を作ってのんびりとしているのか、まるでわからない。
「なにが"どうなされました?"だ、僕と鹿沼の仲だろ?」
大勢が居る前で、社長はあたしに流し目を贈った上でウインク、リップ音をたててキスまでくれた。
皆がざわめかないのは、こうした場面に慣れきっているからだろう。あたしは、駄目っ子社員で入った分、いつも社長からこうしていたぶられているのだ。
だけど悲しいかな、社長の揶揄にいちいち反応する初(うぶ)なお年頃は過ぎさった。
ムーン時代の古い先輩が辞めたりして、三十人ほどいる社員の中で上から数えた方が早い古株になってしまった。つまりそれくらい社長との付き合いは長いことになる。
あたしは動じない。
「はい、上司と部下以外に、全く何の関係もない仲ですが?」
にっこりと笑ってみせてみると、社長はしくしくと泣き出す真似をする。
「あの可愛かったカワウソが~」
「誰がカワウソですか!!」
突っ込むと社長は満面の笑みだ。
もういやだ、なんなのこのひと。
「――で、社長。その後ろの方は? もしかして、鹿沼の?」
掛け合いを見守っていた結城が、脱力したあたしの肩をぽんと叩いて、あたしより前に出た。
え、後ろ?
チンピラ風アウトローな社長ばかり見ていて、気づかなかった。
社長の背後から、ゆっくりと人影が現れる。
黒のスーツを着た、長身の男――。
「そうだ、結城。鹿沼に決して落ち度はないが、化学変化を期待して。
WEB部 課長職についた香月くんだ。鹿沼の上司になる」
眼鏡越しに見える、涼やかな切れ長の目。
セットされた艶やかな黒い髪。
結城のような男らしい精悍さよりも、性別を越えた美貌が強烈で。
顔の造作は完璧なのに、精巧な氷の彫刻を見ているかのように、凍てついた印象しかない。