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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 


 あたしはなににむくれているんだろう。

 欲しいならさっさと抱き合って気持ちよくなって、それで帰ればいいじゃないか。1回きりにして。


 なににこだわっているんだろう。

 なんでここに居るのだろう。
 

「そこまで……嫌……?」


 あたしの目から涙が流れていたらしい。

 課長の指が掬い取った。


「今さらかもしれませんが……、あたしそこまで簡単な女じゃないんです」

「………」

「理由がないのに、そういうことしたくない」

「……結城さんには、理由があるの?」

「はい」

「……九年前、は?」

「ありました」

「だけどあなたは、俺を置いていって消えた。あの金はなに? 俺、金で買われたの?」

 罪悪感に心が苦しい。

「あれは……中学生だと知らなくて。ごめんなさい、と」

「それで終わりにしたんだ? コンビニもやめて」

「え?」


 コンビニでバイトしていたのを、何で知っているんだろう。


 あたしは課長を見た。

 課長は無表情だった。


「昔の俺はそんな程度だったかもしれない。……じゃあ今は?」


 そこから課長の表情が変わる。


「九年経った後の俺は? あなたを惹きつける魅力はない?」


 男の顔に。

 九年前の情事に耽っている時の顔とはまた違う、大人の男の顔で。


「やっぱりあなたにとっての俺は、眼中外?」


 声が震えていた。


「九年前も九年後も、あなたの身体は俺に素直に喜んでいた」

「……っ」

「なのに、あなたの心がついてこない」


 瞳が悲しげに揺れた。


「俺は結城さんの代わりにはなれない? 結城さんのように特別な心は貰えないの?」

「結城の代わりは、誰にも出来ません」

「……っ」

「だけど課長にとって、あたしの代わりは誰でも出来るでしょう?」

「あなたにとって、俺の代わりは誰でもできるのか?」


 お得意の質問返し。

 詰るような激しい目で、言われた。


 ねぇ――。

 
「正直あたしにとって、課長は忌避すべき存在でした。課長が現れなきゃあたしは落ち着いていられたと思います」


 なんでそんな傷ついた目をするの?

 
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