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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
 


「そりゃあ、こんなに至近距離に居るんだから隠したいものもわかってしまいますよ。もういいです、素直に言って下さい。我慢しなくていいですから。逆に我慢された方が気まずいですから」

 どれだけ酷い顔をしているのだろう。見られない顔だから、さっさと化粧して化けて来いと言われた方がすっきりする。

「え、我慢しなくてもいいって……いいの?」

「はい、いいです。(言われる)準備は出来ましたから」

 ごくり。

 課長が唾を飲み込んだのか、喉仏が上下に動いた。


「じゃあ……」

「ちょっ、なにするんですか!?」


 覆い被さり、キスをしてこようとした課長に驚いた声を上げたら、彼の方も驚いた顔をした。


「なにをって、俺に抱かれる準備が出来たって……」

「誰がいいました、そんなこと!? あたしの寝起きの顔が酷いと言いたいんでしょう!?」

「は? 酷い?」

「素直に言っていいですって! あたしポジティブに行きますから!」

「……。ああ、そっちか」

「そっちってなんですか! あたしだって女の子……」

「俺、眼鏡外してるのに、そこまで細かく見えると思う?」

「あ……」


 ちゅっとリップ音をたてて頬にキスされ、囁かれた。


「――が、ばれたのかと思って焦った」

「……はい!?」


 あたしの耳に聞こえたのは、朝限定の男事情。真っ赤になってぽかぽか拳で叩こうとしたら、課長は手のひらで受け止めながら、声をたてて笑った。

 悔しいくらいに綺麗な顔で。


「化粧した顔もキリッとした美人で好きだけれど、皆がその顔を見ているのなら、俺は化粧しない顔を見たい。いいじゃないか、俺は昔、あなたの化粧していない顔を見て、凄く可愛いと思ってキスしまくっていたんだし。今も可愛いよ」

「な!? 見えていないくせに出任せ言わないで下さい!!」


 そうやって、九年前の地雷を踏んで、爽やかさを装いながら口説くように甘く言うから、あたしは絶対化粧をしてやろうと堅く心に決めた。
 
 
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