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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
「俺のこと、心配にならないの?」
「心配ではないと言えば嘘になりますけれど、もう熱が下がって元気そうですし、ここに泊まる意味ないです。風邪でもないんでしょう?」
「陽菜がいないと寝れない。いなかったらまた熱出す」
「どこの駄々っ子ですか! あたしは課長のお姉さんでもお母さんでもないんです。それとも、お膝にだっこしてよちよちして貰いたいんですか? やっぱり年下のガキだと言われたい?」
「……っくしょぅ、これなら無理矢理にでも抱き続けて、腰砕けばよかった」
「なにか言いました? 物騒な空気が漂って来るんですが」
「なんでもない!」
あらま、一気に不機嫌になったよ、このひと。
「別に今生の別れでもないんだし、月曜日からは嫌でも顔を突き合わすんですから」
「でも多分……」
「多分?」
「……。……二週間後、あなたが言ったこと覚えてる?」
眼鏡の奥の切れ長の目があたしを射る。
窓から差し込む光を吸収して、透き通るような輝きを持つ、茶色いビー玉みたいな瞳に見入ってしまう。
「は、はい……」
――二週間後……、最後まで抱いて。――朱羽。
はっきりと覚えているだけに、今となれば思い切り恥ずかしい。
よくもあんなことを言えたものだ。あたし何様よ……そう思えど、取り消す気は起きなかった。
九年前適当な名前を使い、あの時のピロートークも今となればチサのこと以外は曖昧だけれど、それでも九年後、満月ではなくあたしの意志の力が働く中であれば、たとえ快楽の最中とはいえ、自分から言い出したあの約束だけは忘れるつもりはなかった。
満月ではない時くらい、彼に嘘をつく気はなかったから。
あたしも、生半可な覚悟で言ったわけではないのだ。
……満月でなくとも密に抱き合える、その理由を作りたいと思う。
こんなの……初めてなのだ。
「二週間後、金曜日の夜からは離さない。離れたくないと言わせる」
こんなに惹き込まれて、見つめられると胸の奥が焦げ付いたように、じりじりと熱くなって、息苦しくなるのは。
嫌だ嫌だと拒みながら身体を触られることを拒みきれず、何度もはしたないところを見せていながらも、その時の恥ずかしさよりも課長の匂いに包まれるのが嬉しいなどと考えてしまうのは。
あたし、こんな女だったろうか。