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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
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「本気で帰るの?」
玄関の壁に背を凭れさせた課長は腕組みをしながら、顔だけこちらにねじ曲げるようにしてあたしを見ている。
「はい。お邪魔しました」
「……。送る」
「いりません。ここから歩いて三十分もしないで家につくでしょうし、途中でタクシー見つけたら拾います」
「車ならすぐだと思うけど」
「課長、車もあるんですか!?」
このひと、どれだけセレブよ。
普通こんな高級マンションに住んで車も持ってないから。
「ほとんど使ってないけど、あなたを送るくらいなら車出せるよ」
「いやいいです。なにが嬉しくて病人だった上司に車運転させるなど」
「だったらあなたが運転したら? 免許あるんだろう?」
「免許はありますけれど、おととし実車一回運転した時にあまりに車がでかいし久しぶりだしで怖くて、それ以降運転していないから完全初心者です」
「……誰の車?」
「結城のです」
課長の片眉が跳ね上がったが、無視して続けた。
「あいつ結構アウトドアと車が好きで、ボーナス注ぎ込んで中古で買ったんですよ。Range Rover課長ご存じですか? ジープみたいな、SUVとか言うらしいですが」
「ああ、知ってるけど……。あれ運転出来るなら、2ドアの車だって」
課長があたしの立つ横の靴箱の扉を開けると、その内側に車のキーがかかっている。こんなところに車の鍵ですか。
ちらりと見えたそのキーホルダーは――。
「あたし、それは運転しませんよ!?」
あたしは驚愕に飛び上がり、裏返った声を出した。