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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
「その黄色の中の黒い跳ね馬のエンブレム、幾らなんでも車の疎いあたしでさえ知っています! 基本あたしは左ハンドルや助手席しかない車には乗りません……というより、怖くてハンドルも触れませんから!」
「じゃあ俺が運転すれば……」
「そんな車がうちのボロマンションの近くにあるだけでも、完全に大騒ぎになります。送って下さるというお心だけで結構、あたしはごくごく普通に帰りますから」
昨夜、課長にシワシワにされたあたしの服は、浴室のミストが乾燥にもなるというありがたい現代のハイテク文明の恩恵にあずかれたおかげで、シワがほとんど目立たなかった。
服はよーし!!
「では帰らせて「その足で?」」
そうだ。一番下に問題がある。
パンストが破られたため、生足で帰る靴がないのだ。
あたし、ヒールの踵が折れたから投げ捨ててタクシー拾ったんだ。
「あの、靴お借りしてもいいですか? サンダルでもなんでもいいので」
「これなら使わない」
棚から出されたサンダルは、あたしの足には大きすぎて歩くとカッポカッポと音がする。まるで幼子が初めて下駄を履いたかのように、脱げそうなのを堪えて歩くために足が覚束ない。
「あなたの足は細くて小さいから、余計俺のが大きいんだな。サイズどれくらいなの?」
「女としては普通のサイズですけれど。23.5です」
「俺は27.5だからかなり小さいね。その状態で家まで歩くの? それにここ一体は、タクシー来ないと思うけど」
「タクシーを携帯で呼びます!」
「……車で家に行くのが嫌ならさ、途中で下ろすっていうのはどう?」
課長が車のキーをプラプラさせた。
「あなたが普通に外を歩いて、ひととすれ違っても恥ずかしくないように、ちゃんと家の近くに置いてあげるから」
「嘘臭いんですけど。そのなにか企んでいそうな笑顔が」
「失礼だな。俺は嘘言わないよ。あなたが恥ずかしい思いをするというのなら、二週間後の約束取り下げてもいい」