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いじっぱりなシークレットムーン
第2章 Nostalgic Moon
 


 何事もないかのようにすました顔で、尋ねる。


「ここまでは、よろしいですか?」

「はい」

 
 今までこんなに残業を苦しく思ったことがない。

 WEB部の命となるサーバ室のサーバが壊れてしまって徹夜の復旧作業についていた時よりも、その間に取引出来ずに損害被った顧客から訴訟されそうになり、そこを結城と衣里らの土下座と説得で回避出来た時より、なんでここまで心臓がぎゅっと絞られるようになって、息をするのが苦しいのか。

 わかっているのなら、はっきり言えばいいのだ。


 チサと名前を変えて、中学生を食っちゃった女だろうと。
 
 そうしたら、「あの時は発作にとち狂っていて、中学生だとわからなかったの。ホテルに置いてきぼりにして逃げちゃってごめんね、あは」と笑って言えるのに。


 確かに逃げるようにしてシャワーも浴びずに服を着て飛び出したけれど、それでも、お詫びとして一万円をちゃんと部屋に置いてきた。

 え、一万円じゃ足りなかったとか?

 中学生の童貞、高っ!


 それとも脱童貞ばれて、チサちゃんにフラれちゃったとか!?


 或いは彼が通っていた、あの偏差値が高すぎる有名校に、あたしとホテル入るところを知られたとか? 姉弟で誤魔化せず、人生転落コース!?

 ああ、関わるまいと思っていたのに、思わず口が動いてしまった。


「あの、課長の最終学歴は?」

「こ……あ大ですが」

 興亜大学!?

 大都大学に並ぶ最難関大学じゃん。


 ……転落してないじゃん。人事課で確認したら、24歳。つまり現役で、超難関大学に入っているじゃん。

 なんでここの会社に来たんだろう。


 偶然? それとも 必然?


「お若いようですが、最初から課長に抜擢されて中途採用って珍しいですね。なぜこちらに? お知り合いがいらっしゃるとか?」


 さあ、なんと答える!

 
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