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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
 


 ハイスペックイケメンは、運転する姿もイケメンで、平凡女は無性に遠ざかりたい気分になるが、前を向いて片手でハンドルを操る課長は、あたしの手ごとシフトレバーを握ってきた。


「……っ」


 凄い手汗をかく。

 なにも言わないで黙々と運転する課長に、思い切り緊張するために、触れあう手が気になって仕方がない。


「運転、邪魔ですよね」

 はははと笑ってシフトレバーから手を離そうとしたが失敗。

 さらにぎゅっと力一杯握られた。


「あ、あの……」


 課長はなにも言わずに平然と運転を続けるから、あたしも押し黙りながら、やけに熱いその手と、課長の匂いが車にもあたしの心にも充満していく様を感じ取っていた。


 手が熱い――。


 やがて、見慣れた景色が見えてくる。


「ここで! ここでいいですから! あたしコンビニに寄るので」


 上擦った声で叫ぶと、近所のコンビニのところで車は静かに止まった。


「すみません。ありがとうございました……」


 そしてドアを開けて降り立とうとすると、あたしの膝になにかがどさりと置かれた。これは課長が銀座で買い物をしたものではないか?


「ああ、座席に置いておきますね」


 あたしが降り立った後、助手席に荷物を乗せて帰りたいのだと思ったあたしが笑うと、課長はあたしの腕をとった。


「あげる」

「はい?」


「言っただろう? 恥ずかしくないようにって」

「え?」

「サンダル返して」

「なんでそんな意地悪を……」

「代わりにそれあげるから。開けて」


 紙袋からは包装された箱が出てくる。

 開けろとうるさいから包みを開けて箱の蓋をとると、中から出てきたのは……。


「23.5だったよね?」


 シルバーのビーズで刺繍された黒いハイヒール。


「え、え?」

「気に入らなかった?」


 
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