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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
 


「うん、似合う」

 そう、臆面もなく眩しい笑みで言うから、

「本当にありがとうございました!!」

 あたしも素直に破顔した。


「礼を言うのはこっちの方。また来てよ。あなたの手料理、食べたいんだ」

「……へたくそですよ。絶対期待しないで下さいね?」


 こんな高い素敵な靴を貰ったのなら、代価で何回作ればいいのかわからないけれど、あたしなりに頑張ってみようと思う。


「それでもいい。俺だって上手じゃないし」

「なにを! あんな手の込んだ美味しいもの作れるくせに」

「美味しかったのなら、それはあなたのことを考えていたからだ」


 課長が運転席からあたしを見遣った。


「愛情料理、だったんだ」


 冗談とも本気ともわからない切なそうな顔でそう言うと、ちょいちょいとあたしを呼ぶ。

 なんだと顔を車内に入れると、シートベルトを外して助手席まで身体を倒した課長が、顔を傾けてあたしの唇にちゅっと音をたててキスをした。

 驚いたあたしに課長はやけに色気に満ちた笑みを浮かべて言う。


「二週間後と言っても、俺……、おとなしくはしていないから」

「え?」


「会社であなたと俺は恋人だ。結城さんではない。……それを忘れないで」


 含んだ笑いを向けて席に戻ると、エンジンがかかる音がした。


「じゃまた」


 そして車が走り去った。


 
 寂しい――。

 昨夜からずっと一緒に過ごしたからなのか、課長のあの匂いが空気に溶けて消えてしまったことで感じるこの気持ちは、途方もない喪失感。


 忘れものに気づいたりして、ここに戻ってきてくれないかなどと考え、消えた車の先をしばらく見つめていた。


――名前を呼んで、ヒナ。



「朱羽――……」



 あたしは気づいていなかったのだ。


 コンビニの中に結城が居たこと。

 そして窓から一部始終を見ていたことに――。

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