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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
「……。さ、帰ろう」
戻ってくる気配のない車を自嘲気に笑いながら、あたしには美しすぎる靴をふと目にし、無性ににやけてしまった。
この年になってこんな高価な贈り物をされたから……、というよりは、課長がどんな顔をしてこの靴を選んだのだろうと思うと、その場面を想像するだけで顔が緩んでしまうのだ。
――愛情料理、だったんだ。
どんな顔で料理してたんだろう――。
「やばい、やばい。このままじゃ本気でやばい」
緩む頬をパンパンと片手で叩いて振り向いた時だった。
「よう」
目の前に結城がコンビニ袋を手にして立っていたのは。
白いパーカーにカーキー色のチノパン。完全に私服だ。
「心配したんだぞ、なんのためのスマホだ、こら!」
片手で作った拳骨をあたしの頭にくれて、結城は声をたてて笑った。
「なんだその顔。ムンクの叫び、地でいけるおもしれー奴」
「し、失礼ね。誰がムンクの叫びよ!!」
ぎくりとしたのだ。
課長は結城と電話で話したと言っていた。
そうして今、目の前のコンビニの袋を持って現れた結城は、たった今帰ったばかりの課長とキスをしていたのを見てしまっていたのだろうか。
「あはははは、お前の心の声、言ってやろうか? "なんでここにいるの?"、"いつからここにいたの?"、"課長に靴を貰って赤らめた顔をキスされたの、見られてたの?"」
「――っ!!?」
「大丈夫だからそんな顔をするな。俺は別にお前に差し入れを持っていってやろうとしたけれど、お前が家にいないからコンビニで時間潰してたわけでもねぇし? 別に雑誌立ち読みしてたから、俺の立つ真向かいの硝子の奥に停まった、えらく高そうな銀のフェラーリは見てねぇし? そんなとこからお前出てくるわけねぇし?」
見られてた。
完全に見られていた。