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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
「別にあの課長とひと晩過ごして、こんな夕方近くに昨日のスーツで堂々ご帰宅されても、別に俺はなにも言える立場じゃありませんし? しかもあの課長と似たような匂いをつけてこられても、なにしてたんだと怒る資格もありませんし? 俺、理解ある同期で、鹿沼さんにとって何者にも代えがたい特別な存在みたいだし?」
「……あ、あの……」
ちらちらとあたしを見ながら嫌味を言う結城は、突然に親指を突き立てて言った。
「だけどよ、鹿沼。部下として熱出して道端に倒れた上司を介抱をしたことは、えらい! 営業課長の俺が褒めて遣わす!」
「は、はあ……」
「あの課長、心臓の手術をしにアメリカにいたらしいぞ。お前知ってた?」
「いや、まるで全然。心臓って……」
まるでそんな様子は見られなかった。単純な留学ではなかったらしい。宮坂専務ならきっと真相を知っているだろう。
「ショック? 俺には話して、お前には話さないの。すげぇ、お前ぶーたれてるけど」
「べ、別に……」
結城は、いじっぱりと笑いながら続けた。
「今は心臓はもう大丈夫らしいけど、疲労が祟ると熱出して倒れることが多いらしい。気づいたらいつも病院で点滴をしているほどらしいから。病院にいかずにすんだのは、お前のおかげだと」
「そんなこと言ってたの!?」
「ああ、それだけじゃない。お前と連絡つかないと俺を心配させた謝罪と、礼とを言うんだよ、すげぇ丁寧に」
「なんでお礼?」
すると結城は面倒臭そうな顔をしながら、頭をガシガシ掻いてその件はぼかした。男同士の話らしい。
「……参ったよ、いっそ俺を挑発してくれれば俺、キレれたのに」
結城はどんな課長の言葉を思い出しているのだろう。
自嘲気に笑う結城の顔は疲れているようにも思える。