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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
 


「あいつ、絶対キレねぇよな。そこまで落ち着き払える、余裕なハイスペックで出来ているのか。感情が乏しいのかな」

「いや……そんなことは。大人びてはいるけれど、素は子供っぽいというか可愛いところもあるし」

 すましたようなクールさはあるけれど、普通に喜怒哀楽はあるし、むくれたり拗ねたり、表情は出てきたと思う。

「……ふうん? 俺には会社に来た時から、まるで態度が変わらねぇけど。へぇ、そんな感じで接しているの、お前に」 

 鉄仮面――結城はそれしか見ていないのか。


「そのせい? お前があいつを気にするの」

「え?」

「それともイケメンだから? フェラーリ持ってるほどの金持ちだから? トラブル抑えられるまで頭がいいから? どれ?」

 結城の顔から笑いは消えていた。


「俺の知ってるお前は、軽々しく男の家に行かないし、病人の熱が下がった時点で帰ってくるだろう。しかもプレゼント貰って、フェラーリで帰ってきて、思い切り嬉しそうで。お前、フェラーリにくらっときたの? 靴? それともあいつの家?」


 腕組みをした結城の目が、剣呑な光を湛えて細められた。


「お前、そんな女だったっけ?」

 侮蔑の眼差しが向けられ、あたしはむきになって言った。

「付属のなんてどうでもいいよ。逆にセレブすぎるの怖いし、現実感ないというか。お約束のあまりに出来すぎたハイスペックぶりに驚いてばかりだったあたしなんて、うへーすげーくらいだし。別にそんなの知ったからって、課長は課長で変わりないし」

「………」

「だけどなんていうか、課長もそうしたセレブ生活に馴染んでない感じで、なんとなくだけど、居心地悪そうには感じたけど。部屋は白すぎるし、フェラーリも今まで使ってないみたいだし。自慢されるでもなく、満喫しているようにも見えなかった。結城みたいに、欲しい車手に入れて嬉しい!という感じまったくなかったし」

「………」

「車で送って貰ったのは、昨日靴の踵を折って、課長抱えているから邪魔で投げ捨ててきちゃったのよ。で課長のサンダル借りたら、ガッパガッパ音鳴って恥ずかしかったから」

「……。なんでキスされて拒んでなかった?」

「それは……」

 なにも言い返せない。

 こんなところでと驚いただけで、抵抗しなかった。する気もなかった。
 
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