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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
 

 ***


 結城自慢の黒い大型車のRange Rover。

 最初この車を見た時、右ハンドルだから国産車だと思ってたら、右ハンドルのイギリス車で、結構高い車だったらしい。

 結城が仲良くなった営業先から紹介されて、新古車を安く手に入れたらしく、ボーナスをも注ぎ込んでようやくこの夏、借金がなくなった車でもある。

 課長のフェラーリが流線的だったのに比べて、Range Roverは直線的で男らしい車だ。


 そんな車に乗って行く先は、前に衣里が騒いでいた、箱根近くの新しく出来たレジャーパーク。

 遊べて身体もすべすべになるらしい、温泉のプールが沢山あるという…その人気のスポットは、エステもあるらしく衣里と絶対行こうねと話していたものだ。

 衣里も誘いたいと言うと、思い切り却下された。いいところだったら、また衣里と行こうと思い、衣里に内緒にした。


 プールは過ぎ去りし季節のものだけれど、温泉なら温かい。

 男と水着姿ってどうよとも思ったけど、結城は別だ。

 全裸の奥の奥まで見られて知っている。恥ずかしがる要素はないのだ。すっぴんすら結城はよくご存知だから、水に入って化粧がとれても慌てることもなく。……課長とは反対バージョンにいる。


「どんな水着?」


 運転席の結城が言う。


「え? 紺のスク水」

「マジで!?」

「嘘に決まってるでしょう! なにが嬉しくて28歳でスク水にならなきゃ駄目なのよ」

「あはははは。……で、弁当は手作り?」

「手作りじゃないと家のドア蹴破るとか物騒なこと言ったのは誰よ!? 休みなのに明日から出勤なのに、四時起きなんだらね!?」

「ご苦労ご苦労。タコさんウィンナー入ってるよな?」

「ちゃんと入れてるわよ。顔までつけてあげたから」

「やっべー、可哀想すぎて食えねー」

「食いなさいよ、四時起きの苦労に報いなさいよ!?」

「あはははは! はい、ありがたく頂戴します」


 結城とは笑いが絶えない。

 さすが営業課長にまで出世した男、昔から会話に困ることがない。

 
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