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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
「俺、父親の顔知らねぇんだわ。入退院を繰り返していたはずの母親が、再婚したいと連れてきたのが社長さ。当時俺はまだ高校生で、社長はまだ二十代で社会人になったばかり。お袋より大分年下で、俺と社長の方が年が近かった。忍月コーポレーションで働きながら、お袋と俺を養ってくれた。だけど俺はそんな環境が気に入らなくてさ、社長に反発した」
社長は薄く笑い、衣里は俯いていた。
「しばらくしてお袋が社長と籍を入れ、その三日後、お袋が急逝した。……たった三日だぞ、そんなの結婚したうちに入らねぇって。それなのに、その三日のために社長は、お袋が死んだ後にムーンを作りながら、荒れてた俺を更生して大学に行かせてくれた。たった三日のために、俺の面倒を見る羽目になった。俺は、父親とは思ってねぇからいいと言ってるのにさ」
「むっちゃんはそう言うけど、僕の息子なんだよ」
社長は薄く笑った。
「だから三日だぞ!? お袋はもう居ないんだぞ!?」
「三日だろうが、お母さんがいなくなろうが、生半可な覚悟で籍は入れてないから」
結城は苛立ったように頭をガシガシ掻いた。
「じゃあムーンに入ったのは?」
「色々俺やお袋に金使っただろうから、そうしたものを俺は全部返したかったんだよ。大学時代にしていたバイト代受け取らないから、社長の会社の給料からなら受け取るだろうと思っても駄目。それなら部下として社長に尽くして、会社利益で返すしかねぇだろう。俺、めちゃ走り回って仕事取ってきたんだぞ。社長がのらりくらりと会社経営するから、途中でムーン潰れそうになるし」
ひねくれ結城の、父親であり兄でもある社長への温情。
大学時代、もっといいところも狙えたはずなのに、結城は真っ先にムーンの就職を希望していて、その他の会社を考えていないようだった。バイト代を受け取らないという大学の頃から既に、社長に尽くすことを決めていたんじゃないだろうか。借金返済で終わるような、そんな程度のギブアンドテイクの関係ではない感じていたのは、結城もだろう。
ITに適性がないあたしが結城によってムーンに入れた時も、なんであたしと同じ新入社員であるはずの結城が社長に直談判出来るだけの力があるのかと思ったけれど、結城にはそんな秘密があったからなのか。