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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
「ま、そういう繋がりはあるけど、僕は睦月を依怙贔屓はしていないぞ。僕は実力主義だ。カワウソだって飲み込み早いし意地があるから、戦力になるほどに育つと見込んだから採用した。なにも睦月の言葉を鵜呑みにしたわけじゃない」
あたしの胸の内を読み取ったように、社長は笑った。
「課長になれたのは、むっちゃんの実力。僕はただ、皆の決定に判子押しただけだからさ」
「むっちゃん言うなって」
結城が可愛いんだろうなと思う。
他人であるのにきっと近しい存在。それくらい社長は結城のお母さんを愛していたのだろうか。彼女の死後、彼女の遺志を受け継ぐほどに。
「……たった三日」
その時、ぼそりと衣里が呟いた。
「それでずっと独り身を通すんだ。死んだひとを想い続けて、その息子が成人しても手元に置いて見守って」
「衣里?」
衣里の上げられた凄惨な表情であたしは、直感的に思った。
いつも見せない今にも泣きそうなこの表情から、もしかして、衣里は社長のことを……って。
あたしは別にひとの色恋沙汰に敏感に反応するタイプではないけれど、この時あたしが感じたものは、気のせいではないとあたしは強く思えたのだ。
今、結城の話で衣里が心が泣いている――そう思ったら、彼女が取り乱す前に、受け止めなきゃと思って立ち上がった。だが、
「真下、ちょーっとこっちに来い。喉渇いたから飲み物買いに付き合え」
「なんで私があんたと……っ」
「いいから! 俺は腕が二本しかねぇんだから、四つも持てねぇんだよ」
「じゃあ足使いなさいよ、四本になるでしょう!?」
衣里を社長から引きはがしたのは結城で、立ち上がったままのあたしを細めた目で抑えた。
ここは自分に任せろと、だからあたしは社長を頼むと。