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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
そして結城はいつもの通りに衣里に言う。
「足まで使ってどうやって歩けというんだよ!」
「あんた猿なんだからなんとでも出るでしょう!?」
「俺のどこが猿だ! いいから来い、今ならあのかき氷も食わせてやる。お前さっき欲しがってただろうが。おごりだぞ?」
「……マジですか!?」
ふたりは背を向けた。
結城は、衣里が社長を想っているかもしれないことに気づいているのだろう。
だからあたしのように、取り乱した彼女がいつもの彼女でなくなる前に、社長から離したんだ。クールな衣里が後で困らないように。
くっそ~、あんたはさりげなくていい男だよ、結城。
いつから衣里の気持ちに気づいていたんだろう。そして衣里はいつから社長が好きだったのだろう。
思えば、飲み会の時いつも衣里は社長の横に居た。
相手が社長だから衣里なりの気遣いだと思っていた。さらに言えば衣里と社長はお酒好き仲間だし、あたし達同期は一番社長と仲がいいと思うし。
社長も衣里と共にここにくるくらいだから、衣里とプライベートでも仲がいいのだろう。あたしはムーンの時から社長に言われて社長の携番スマホには入れてはいるけれど、電話はしたことがない。きっとこれからもしないと思う、よほどの緊急事態がない限りは。
そうか、衣里は電話しているんだ、社長に。
思い返せば、衣里は遊び人風社長のことをボロクソに言ったことはない。それなのに結城のことは、実力を認めてはいるのに本人にも辛口だ。
もしかしたら――結城が、社長が忘れられない女性の息子だから、だったのだろうか。
あたしは六年も友達をしているというのに、衣里の境遇はおろか衣里の気持ちすら気づけなかった。
衣里はあたしの些細の変化から、あたしと課長がなにかあったのか、すぐ見抜くというのに。
ああ、観察眼がどうこうの問題ではない。
あたしが衣里に対して薄情すぎた。……男の結城ですら気づけたものを、あたしは気づいて力になってあげることが出来なかった。