この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第2章 Nostalgic Moon
そして、よろよろとビルの玄関から出るあたしを、結城は花壇に腰掛けて待っていてくれた。恐らく会社を出てずっとだろう。そういう優しい奴だから。
「……心配した通りだ。満月近いから、もしあの課長となにかあったらと」
……結城には言えない。昔童貞を奪った中学生が、課長だなんて。
「大丈夫、その前に出てきたから。正直、ちょっとやばかった。結城の電話で助かったわ。心配かけてごめん、タクシー拾って今日は早く寝るわ」
棒読みのようにそう言い切った直後によろけたあたしは、結城に腕を掴まれて転倒を免れた。
掴まれている腕から、甘い痺れが広がり、あたしは結城の手を払った。
それを見ている端正な結城の顔が、悲痛さに歪んだ。
「……身体辛いんだろ? 今日、お前の家に泊まる。俺の家の方が近いか」
「いらない」
「鹿沼!」
「言ったでしょう? 満月の時だけでいいって。それ以外の時は、結城はいらない。そこまで縛られなくていいから。月に1回だけでいいの」
――俺を使え! 他の奴じゃなく、これからは俺を頼れ、いいな!
結城があたしの前で泣いたのは、大学時代のあの時1回きりだ。
満月の夜、合意で見知らぬ男三人にホテルで抱かれていたあたしを、助けに来た結城は連れ去った。
あたしは、結城のおかげで心身を正常に保てている。
そうあれ以来、大学の頃からずっと――。
月に一度、あの狂おしい満月の夜、結城に激しく抱かれることで。
上から見下ろしていた視線も、振り切るようにして乗ったタクシーを見つめる視線も、すべては歪な月だけが見ていた――。