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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
忍月コーポレーションを辞めて会社を作ったのは、結城にやるため?
確かお母さんが死んでから社長がムーンを作ったと結城は話していた気がするけれど、結城は社長の思惑にきっと気づいていない。
「それと、衣里を泣かせないで欲しい。衣里を笑わせてやってくれ……。あいつはお前や結城の元で、本当に楽しそうにしている。それは僕と一緒の時の背伸びしている衣里とは違う、素の顔だと思うから」
絞るような声で。
「……社長、なにを仰ってるんですか? そんな遺言みたいな……」
社長は静かに笑って言った。
「僕さ、もう長くないんだよ」
すべての喧噪が音を消した。
「冗談は……」
「冗談だと思う?」
いつにない覇気がない顔を見て、あたしの身体が震える。
寒い――。
さっきまで暑かった室温が、無性に寒い。
「……僕とお前だけの秘密だ。お前ならきっとあのふたりの支えになると思う。僕の亡き後は……ふたりを頼む。
このことは、僕が倒れるまで口外しないでくれ」
「社長……」
「……なぁんてな。騙されたか、カワウソ」
社長がにやりと笑う。
あたしはしばらく状況が掴めずにいたが、やがてこれは社長お得意の冗談だったことに気づいた。
「……騙してたんですか!?」
「当然。僕のどこが具合悪く見えるのかなあ、この可愛いカワウソは。また沼に溺れた顔をしてるぞ?」
「ひどっ!! 社長冗談キツすぎますって!! 信じちゃったじゃないですか!」
「あはははははは!!」