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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
 

 あたしがいきりたつと、衣里があたしを制して言う。

「ああ、あなたが忍月コーポレーションで有名な宮坂専務ですか。初めまして、真下衣里です。おたくの社員に伝えておいて下さいませ。来るなら、樽で3つぐらいは平気で飲めるようになってから来いと。弱い人間は相手になりませんわ、夜もつまらなくて」

 衣里の営業モード。にっこり笑って辛辣な毒の矢だ。

「こりゃあ手強い。さすがはあの、やり手の真下現当主の娘さんだ」

 真下現当主……。

 あたしが知らない衣里のことを、衣里にとっては初めて会ったはずの専務が知っているというのか。


 営業用の衣里の仮面がみるみるうちに崩れている。


「お前が逃げ出したせいで、真下家がどうなっているのか、わかっているのかな? ……それにお前、まだ処女だろ」


「――お黙り!!」


 専務を諫めたのは、衣里でもあたしでも、結城でも社長でもなく、


「野次馬根性でひとの家を好き勝手言うんじゃないの! いまだバージンキラー貫いているのか、この女の敵! 反省するまで口利かないから!」


 手に持つコーラを逆さまにして、専務の頭からぶっ掛けたつま先立ちの女性だった。

 専務は頭上に逆さまになった紙コップを置いて、見事に茶色い液体がだらだらとこぼれ落ちている。

 コーラが滴る男は、イケメン度が下がるこの不思議。

 ここまでしたのに、それでもまだ、手を拳にしてそれを振り上げようとするまでにぷりぷり憤る女性を制したのは、社長だった。

 
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