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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
 


「そう? 本当にごめんなさいね」


 食堂で女性からちやほやされていた専務に、堂々とこんなことをして、だけど専務が怒らないこの女性――。


 あたしは、聞いてみた。


「あの……、あなたが"沙紀"さん? 昨日の夜、お話した……」


 女性があたしを見た。


「まさか……あなたがヒナちゃん?」


 そうだ、彼女は吾川沙紀と名乗っていた。

 電話で課長の電話番号を教えてくれた女性だ。


「うわあ、偶然ね! 金曜日私の誕生日だったから、その時からずっとホテルに泊まってて、今日帰る前にまた遊びに来たのよ! よかったわ~、すぐ帰らないで! 渉より私の勘を信じてよかったわ!」


 にこにこと可愛い沙紀さん。


「やぁぁぁん、可愛い! ヒナちゃん想像以上に可愛い!! いいなあ、なにカップ? 私貧乳だから羨ましいわ~。あなたも凄いわ! ねぇ何歳なの? ええええ!? 私とタメ? 嘘でしょう!?」

 あたしと衣里の胸に言及する沙紀さんが、あたしと同じ年とは。

 顔は年下だけど、物言いはあたしより年上に思えたから驚きだ。


 意外だ。専務がこういう系を選ぶとは。

 だけど考えがはっきりしていて、悪いものは悪いと人前でも言える、パワフルな彼女に好感を持った。

 こういう女性だから、専務を懐柔できるのか。
 
「――で、ヒナちゃん。朱羽くんはどこ? 朱羽くんと一緒に来たんでしょう? しばらく会ってないから挨拶したいわ」

「あ、あの課長は別に……」


 沙紀さんは純粋な笑顔で聞いてくる。

「あれ? ヒナちゃん、朱羽くんと付き合ったんじゃないの?」

「いいえ。付き合うとかそういうのではなくて……」

「朱羽くんからなにも言われなかったの? あなたになにもしなかったの? ヒナちゃん家に行ったんでしょう?」

「ね、熱を出していたので……」


 なんか嫌だこの話題。

 あちこちから飛ぶ視線が痛すぎる。

 あたしが罪悪感を感じるは誰に対してなのか。
 
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