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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
 


 結城の黒い瞳が、炎のような赤い光を混ぜて、窓に映る海のように揺らいでいた。




「好きだ」




 空気に乗せるように、微かに震えた唇。

 だけど視線は痛いくらいまっすぐで、微動だにしない。



「お前と友達で終わりたくない。お前を他の男にやりたくない。俺がお前の望み通り友達のポジションを崩さないできたのは、お前にとって俺だけが一番近くに居る男だったからだ。だけど今、本気で焦ってる。……その意味、お前はわかっているだろう?」


「……っ」

 心臓に直撃を食らったように、言葉が出ない。

 結城はあたしの中の課長を見ている。

 まだ好きかどうかもわからないし、踏み出してもいないあたしの中で、確かに息づいている課長を。

 二週間後に抱かれたいと思った課長を――。


「いつか俺を見てくれると思った。いつか友達としてではなく、男として……恋人として必要とされると。お前が恋愛が怖いというのなら、俺だけがお前を安心させてやれる男だと。お前が俺となら恋愛をしてもいいと思えるまで、待てばいいと思ってたんだ……」


 結城の切なげな眼差しが心に突き刺さる。

 痛いと思うのはどちらの心か。


 結城の目と言葉から、そらしちゃ駄目だ。


「大学時代、お前が他の男に抱かれている現場を見て、俺……気が狂うかと思った。なんで抱いているのが俺じゃないんだと。なんでこんなになる状態を俺は知らなかったのかと」

 泣いていた結城を思い出す。

「あの時、俺は決めたんだ。満月に苦しむお前を守ろうと。長い目で思ってたから、大学卒業して俺達が同期になれたのは凄く嬉しかった。よかった、また一緒に居られるって。俺が女作らないのは、満月のお前を気遣って…とか前に言ってたけど、そうじゃないから。俺が他の女に目がいかないから、作っていなかったんだ。月に一回、惚れた女を目一杯抱けるし、困ることはなかったわ」

 結城は笑う。


「でもね、結城。あたしがいたから彼女と別れたんでしょう。あたしが結城を寝取った形になったから」

――この売女! 睦月を返して、あんたが来たから睦月は変わった!

 あたしにそう泣いて叫んだ、土橋千里……結城の元カノを思い出す。

 あれを思い出す度に、胸が切り裂かれるように痛い。
 
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