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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon

結城がここまで想っていてくれたことに、泣きそうだ。
すぐにYESと言えない自分が、どうしても課長がちらつく自分が、嫌でたまらない。なんで結城に染まらないんだろう。こんなに好きで大切なのに。
どうして心にブレーキがかかるんだろう。
どうして……。
――また来てよ。あなたの手料理、食べたいんだ。
どうして課長の声と笑顔が思い浮かぶんだろう。
どうしてあたしを悩ませるのが結城ではないのだろう――。
結城は大切だ。恋愛としても大切に思えると言えないのが辛い。
ここまで言ってくれたのに、なにも返せないのが苦しい――。
「こら、顔を背けるな。おい、なに泣いてるんだよ」
結城が上がってきて隣に座り、あたしの目から落ちた涙を指で掬う。
「俺一生懸命告っているのに、涙を武器するなんて卑怯だぞ」
「……ね」
「ん?」
「ごめんね」
「それはどういう?」
「結城を利用していてごめん。友達と思っていてごめん。結城の優しさに甘えすぎていた。……だからこそ」
結城がたてたひとさし指をあたしの唇に押しつけた。
「……もっと考えろって。YES・NOをすぐ出そうとするのお前の悪い癖。もっと時間かけてゆっくり真剣に考えろ。お前はどうしたいのか」
「でも」
「俺はここからがスタートなの。ゴールじゃねぇよ、そのために告ったんじゃねぇし。俺はこれからお前に恋愛対象として欲しいの、わかった?」
「……ん」
「もう一度」
「……わかった。大切な友達にプラスαを考える」
「友達の方がプラスαだろうが!」
「あ、ごめん!」
結城がぶちぶち言い始めた。
「俺が住んでるところはお前のところに負けず劣らずのボロアパートだし」
「悪かったわね」
「俺が持っている車はフェラーリじゃねぇけど」
「別にあたしフェラーリ好きなわけじゃないから!」
「俺インテリじゃねぇし筋肉馬鹿に近いし、あいつも来た時から課長だし、あいつの経歴に勝るものはないけど」
「あ、社長の息子っていうのは勝ってるかも」
「それは俺の努力じゃねぇだろうが! それはなし、忘れろ!」
「あはははは」
「俺、王子様タイプじゃねぇし」
「あ、どちらかと言えば従者タイプ?」
「お前な! ……くっそ、言い返せねぇ」

